マンハッタンの歴史を語る上で欠かせないStuyvesant(ストゥイベザント）総督に因んだ公園が2番街の15丁目から17丁目にかけてあります。もちろん総督の像も立っています。総督登場前の歴史を少しおさらいしておきましょう。総督はオランダの出身ですから、当然主役は「オランダ」ですよ。

アメリカの歴史はヨーロッパ列強国による植民地化、すなわち16－17世紀頃から語られることが多いのですが、その頃の列強国といえば、ポルトガル、スペイン、フランス、オランダ、イギリスなど。前2者が中南米に進出したのとは対照的に後者は北米に進出します。はじめに進出したのがフランスで、カナダを支配します。ついでオランダがハドソン川流域に入り、遅れてイギリスがバージニア、マサチューセッツに入ってきます。

マンハッタンは1609年にオランダ東インド会社によって派遣されたヘンリー・ハドソン（イギリス人）によって発見され、ここでとれる毛皮に目をつけたオランダ商人が入ってきます。1625年にはマンハッタン南端に、オランダ地名に因んで名づけられた「ニューアムステルダム」の町が置かれました。なお「ブルックリン」、「ハーレム」もオランダ起源の地名だそうです。

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実はこのころのオランダは「絶頂期」といっても良いほど繁栄を極めていたのです。オランダは国が小さいこともあって、日本のように他国の特産品を輸入したり、輸出したりして利益を得る「中継貿易」で国力をつけていました。
当時の貿易の中心は船ですから、「オランダ海上帝国」とも言われていました。主役はオランダ東インド会社です。
オランダは当時全ヨーロッパ船籍のうち4分の3を占めていたと言われます。

しかしそんなオランダの絶頂期は長くは続かず、1652年に始まったイギリスとの戦争（英蘭戦争）をきっかけに衰退していきます。

Peter Stuyvesant総督はオランダの絶頂期に生まれ（1592年？、1602年？、1612年？諸説あり）、そしてマンハッタンに総督として赴任（1647年）してきたのです。彼はマンハッタン赴任前の1644年、戦闘で右足を失い、木製の留釘(Peg)装着を余儀なくされました。このため「Old Peg Leg」と呼ばれていたそうです。

彼は赴任後、英領植民地（コネチカット州）との境界紛争に対し強気な姿勢を見せ、要塞や水路の建設を行い、反対意見は容認せず厳しくあたります。いくつかの問題があって、本国は彼に対し2度の帰還を要請しますが、英蘭戦争の勃発（1652年）によってそれも無視された形になります。

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ちょうどそのころイギリスで発生した新興宗教クエーカー（友会徒：Friends）がマンハッタンに広がりを見せ始め、総督はこれを迫害します。23歳の中心人物を公然で拷問にかけるよう指示しました。1657年ころのことです。この時の抗議文書はのちの合衆国憲法条項、信仰の自由の元になったと考えられています。

その後戦争を有利に進めたイギリスの艦隊がマンハッタンにやってきます。総督に対して「ニューネーデルランド州およびニューアムステルダム」の割譲をせまりました。彼は当初戦う姿勢を見せていたのですが、クエーカーに対する彼の迫害を見ていた多くの移民たちは協力しようとはしませんでした。彼のことを「差別主義者」と見なしたのです。

自州の協力が得られないこと、降伏により財産と自由を保障してもらったことなどから、彼はイギリスの求めに応じます。1664年マンハッタンは一切の血を流すことなく、イギリスの手に落ちました。

さて、長ーい歴史のおさらいのあとで Stuyvesant Square を紹介しますね。まず面白いと感じたのは総督の立像。マンハッタンにはたくさんの立像がありますが、義足をつけた像はこれだけではないでしょうか？木の実も見てびっくり。「何これー！」

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そしてもうひとつは公園の南西に近接して立つ建物です。これはFriends Meeting House and Seminary、クエーカー教徒の集会所です。迫害したものとされたものが隣接しているこのミスマッチ。どちらが後にできたんでしょうか？
でも自然と独り言が。「人の行いは必ず自分に帰ってくるんだなあ。」自分の半生を反省しました。

クエーカー教について。
聖職者の取次ぎがなくても神は現れると考えます。これではカトリックや正教会からの反発があるはずです。
聖餐といった儀式の取次ぎがなくても神は現れると考えます。また聖書については神から啓示を受けた人々の証言としてとらえ、神の導きには及ばない存在と考えるようです。これでは一般的なプロテスタント各派からも反発があるはずです。
クエーカー教徒はイギリスだけでなく、アメリカでも激しい迫害にあってきました。
ペンシルバニア州はクエーカー教徒が安全に信仰を守りながら暮らしていけるよう、ウィリアム・ペンという人が作り上げた土地です。

しかし彼らの絶対的な平和主義と誠実であることを何よりも優先するその行動が「Friends Service Committee」という組織をしてノーベル平和賞の受賞を可能にさせたと言えるでしょう。
女性の権利向上、奴隷解放に貢献しました。偉大な黒人指導者フレデリック・ダグラスにはじめて正規の教育を与えたのはクエーカー教徒だそうです。
またインディアンをはじめとするマイノリティーへの差別に対し温かい手を差しのべてきました。
第一次世界大戦後、貧困にあったドイツ人を多く助けたことから、ナチスからの迫害対象をはずれたという歴史もあるそうです。

写真の「FRIENDS」の文字見えますか？彼らは自分たちのことをクエーカーとは呼びません。「FRIENDS」と呼ぶのです。また、神の前での絶対的平等主義から年齢に関係なくお互いを名前で呼び合うそうです。クエーカー教徒の作った大学では学生が教授のことを名前で、あるいは「汝（なんじ）」と呼ぶそうです。